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総研大生及び修了生による論文解説

食虫植物へと至る進化の細道

 福島 健児(コロラド大学デンバー校 研究員、基礎生物学専攻修了)

2017年7月7日掲載

はじめに

食虫植物といえば、多様な植物を取り揃えた植物園でも、とりわけ人気の存在である。落ちた昆虫をドロドロに溶かしてしまうウツボカズラの捕虫袋や、獲物の動きを感知するハエトリソウの捕虫器、粘着液で虫を絡め取るモウセンゴケなど、我々が日常的に目にする植物とは明らかに異なった特徴に、筆者を含む多くの人々が魅了されてきたに違いない。進化学の祖、チャールズ・ダーウィンも例外ではなく、彼が食虫植物の虜であったことをうかがわせる記録が多数残っている。例えば、『種の起源』出版(1859年11月24日)のちょうど一年後(1860年11月24日)、地質学者チャールズ・ライエルへ宛てた手紙で、彼は『私は世界の全ての種の起源よりもモウセンゴケに関心を持っている。(“I care more about Drosera than the origin of all the species in the world.”)』とまで述べている。ダーウィン以降も、多くの研究者が食虫植物の研究に取り組み、数々の学術的成果を挙げてきた。しかしながら、食虫植物の進化には、現在も多くの謎が残されている。誰もが知る食虫植物ではあるが、彼らのルーツについて具体的に説明できることは未だ多くはない。しかし、近年の塩基配列決定技術の革新を追い風に、我々は謎を解く足掛かりを得ることができた。食虫植物フクロユキノシタの全ゲノム情報と、消化酵素の収斂進化である。本稿では、それらの知見について概説したい。

フクロユキノシタに同居する二種類の葉

現在、およそ30万種が知られる被子植物の中で、700種ほどが食虫植物として認識されている。モウセンゴケ科やタヌキモ科の食虫植物のように世界中に分布し100種以上に多様化している分類群がある一方、オーストラリア西部に固有のフクロユキノシタのように1科1属1種の天涯孤独な食虫植物も現存する。我々は食虫植物の進化を探るにあたって、このフクロユキノシタがもつ特殊な能力に着目した。通常、食虫植物は捕虫葉のみを着ける。ハエトリソウの葉はどれも先端側がトラバサミ型になっているし、ウツボカズラなら常に袋型だ。しかし、フクロユキノシタは袋型の捕虫葉に加えて、食虫能力を持たず光合成に特化した普通葉も作り出すことができる(図1)。食虫植物の捕虫葉は、いずれも祖先種の普通葉から進化したことがわかっているので、フクロユキノシタの中には祖先型(普通葉)と派生型(捕虫葉)の形質が同居しているようなものである。同一の遺伝情報のもとで、これらを比較できるのは、捕虫葉の進化を研究する上で大きな利点となる。捕虫葉と普通葉の作り分けを制御できる栽培条件も見つかり、比較のための下地が整った。このような背景から、我々はフクロユキノシタの全ゲノム配列を取得し、その特徴を解析した。



二種類の葉の比較

捕虫葉の特殊な形や機能の裏には、どんな遺伝子がはたらいているのだろうか。2種類の葉で全遺伝子の発現量を比べれば、その足掛かりが得られるに違いないと考え、実際に解析を行った。その結果、ワックスの合成酵素やタンパク質分解酵素をコードする遺伝子など、食虫性に関連する可能性が高いものが、いくつも捕虫葉で高発現していることが分かった。それらの中には、フクロユキノシタのゲノム上で遺伝子コピー数が増えているものも複数存在した。遺伝子数が増える理由はいくつか考えられるが、1コピーでは賄いきれない発現量が必要であったり、元々の機能と食虫性に関わる機能が折り合わずに、複数の遺伝子に機能を分割する必要があったりしたのだろうと予想している。これらの仮説の正否は実験的検証を待って結論すべきであるが、獲物の誘引・捕獲・消化・吸収など、食虫性に関わる複数の形質について基盤となる遺伝子の候補が一挙に見つかったことで、今後、飛躍的に研究が進むと予想している。

進化は繰り返す

食虫植物は現在700種を数えるが、被子植物の5つの目で独立に出現したことが分かっている(図2)。たとえば、フクロユキノシタ科、ウツボカズラ科、ヘイシソウ科は、どれも袋型の捕虫葉を作るが、それぞれカタバミ目、ナデシコ目、ツツジ目に属し、食虫植物としての起源は独立である。トリモチ式の捕虫葉を作るモウセンゴケ属、ドロソフィルム属、ムシトリスミレ属、ビブリス属、ロリヅラ属も然りで、実は他人のそら似なのである。しかし、この類似が、ただの偶然の産物かどうかは一考に値する。落とし穴式にせよトリモチ式にせよ、食虫に用いられる機構は複雑精緻であり、その類似を偶然性で説明するのは困難だ。代わりに考えられるのが、普通の植物が食虫性を獲得する上で採用可能な戦略は非常に限られていたという可能性だ。自然選択のお眼鏡に適う捕虫方法が少数の方式に限られている場合、別々に進化しても互いに似たものとなる確率は高まる。限られた選択肢の中では、進化は繰り返すのである。このように、異なる系統の生物が似た形質を獲得する現象は収斂進化と呼ばれ、とりとめもなく見える生物の多様化にも限界があることを示している。



遺伝子の進化も繰り返す

 食虫植物の収斂進化は、系統ごとに別々の遺伝子の変化によって起こったものだろうか。この問いに答えるため、消化液タンパク質に着目した。食虫植物が生産する消化液には無数のタンパク質が溶け込んでおり、その多くは獲物の消化を助ける消化酵素である。我々は、3つの目から4種の食虫植物を選び、消化液タンパク質を生産する遺伝子を解析して、系統間でどの程度の共通性があるのかを探った。すると興味深いことに、別々の系統に属する食虫植物であっても、同じ遺伝子を使って消化液タンパク質を生産している例が見つかってきた。複数系統で見つかった9種類の消化液タンパク質の中で、同じ遺伝子を使っている例は6種類にも及んだ(図3)。さらに、見つかったすべての消化液タンパク質は食虫植物に特有のものではなかった。つまり、消化液タンパク質をコードする遺伝子は、普通の植物が食虫植物になる際に、一から発明されたのではなく、元からあった遺伝子が流用されて生じたことを示している。普通の植物では何をしている遺伝子なのかを調べてみると、病原菌などを殺して自身を守る機能を持っている加水分解酵素を生産しているものが多いようだ。そのような機能の加水分解酵素ばかりを消化酵素として転用しているということは、病害抵抗性遺伝子には消化機能へ転用されやすい素地が備わっていたのだろう。たとえば、キチナーゼは真菌の細胞壁に含まれているキチンを破壊できるが、キチンは昆虫の外骨格にも含まれているため、流用するにはちょうどよさそうだ。

 さらに解析を進めると、別々の系統で進化した消化酵素が同じアミノ酸置換を大量に蓄積している例が見つかった。たとえば、あるキチナーゼでは、フクロユキノシタとヒョウタンウツボカズラの間に、17個もの同一アミノ酸置換が蓄積されている。統計的に予測される数は5個程度であり、偶然で説明できる数ではない。同一アミノ酸置換の過剰な蓄積は、キチナーゼの他にリボヌクレアーゼとホスファターゼでも見つかった。この結果は、前節で述べた捕虫様式の収斂進化と同様に、一部の消化酵素の分子進化経路には限りがあったことを示す証拠である。食虫植物は見た目だけでなく、遺伝子の進化まで繰り返していたのだ。



おわりに

二億年に及ぶ被子植物の進化をもう一度繰り返しても、現生の食虫植物と全く同じものはできないだろう。しかし、今回の研究で見つかった知見を勘案するならば、全く違ったものともならないはずだ。進化経路は限られているのだから、そのようなパラレルワールドの食虫植物が現生種のものとよく似た捕虫様式、そして、よく似た消化酵素を作っていたとしても不思議ではない。

このような考察は、まだ空想の域を出ない代物である。しかしながら、収斂進化の研究を突き詰めることで、一見して無限にも見える多様性の中に生物の限界を見出し、進化を予測するための鍵を掴めるかもしれない。食虫植物の進化から学べることは、まだ沢山ありそうだ。

本研究についてより詳しく内容を知りたい方へ

本記事は下記の論文を解説したものです。

【著者】
Kenji Fukushima, Xiaodong Fang, David Alvarez-Ponce, Huimin Cai, Lorenzo Carretero-Paulet, Cui Chen, Tien-Hao Chang, Kimberly M. Farr, Tomomichi Fujita, Yuji Hiwatashi, Yoshikazu Hoshi, Takamasa Imai, Masahiro Kasahara, Pablo Librado, Likai Mao, Hitoshi Mori, Tomoaki Nishiyama, Masafumi Nozawa, Gergő Pálfalvi, Stephen T. Pollard, Julio Rozas, Alejandro Sánchez-Gracia, David Sankoff, Tomoko F. Shibata, Shuji Shigenobu, Naomi Sumikawa, Taketoshi Uzawa, Meiying Xie, Chunfang Zheng, David D. Pollock, Victor A. Albert, Shuaicheng Li & Mitsuyasu Hasebe

【論文タイトル】
Genome of the pitcher plant Cephalotus reveals genetic changes associated with carnivory

【雑誌】
Nature Ecology & Evolution 1, Article number: 0059 (2017)

【URL】
https://www.nature.com/articles/s41559-016-0059


著者略歴

  福島 健児

2015年 総合研究大学院大学生命科学研究科基礎生物学専攻5年一貫制博士課程
   (基礎生物学研究所生物進化研究部門)修了(博士(理学))
2015年 コロラド大学デンバー校アンシュッツ医療キャンパス(米国)日本学術振興会海外特別研究員
2017年 コロラド大学デンバー校アンシュッツ医療キャンパス 研究員(現職)