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問い合わせ先

総務課学融合推進事務室
学融合推進センター事務係

〒240-0193
神奈川県三浦郡葉山町(湘南国際村)

TEL:046-858-1629、1657(事務直通)
FAX:046-858-1546
e-mail : cpis-office(at)ml.soken.ac.jp

公募型研究事業採択課題代表者インタビュー

終了した公募型研究事業採択課題の代表者に、研究内容や成果、学際研究を行ってみての気づき、今後の展開などについて、インタビューを行いました。



研究代表者 颯田 葉子(さったようこ)

総合研究大学院大学 先導科学研究科
生命共生体進化学専攻 生命体科学専攻 教授
同 学融合推進センター副センター長
主な専攻は分子進化学 進化生理学
ドイツのマックスプランク生物学研究所を経て、現職
主な研究テーマに 「五感の遺伝子からみたヒトの進化」などが挙げられる

研究分担者

富永 真琴(生命科学研究科生理学専攻・教授、生理学)
齋藤 茂 (生命科学研究科生理学専攻・特任助教、分子進化学)
五條堀 淳(先導科学研究科生命共生体進化学専攻・助教、分子進化学)
寺井 洋平(先導科学研究科生命共生体進化学専攻・助教、分子進化学)
仮屋園(高橋)志帆(先導科学研究科生命共生体進化学専攻・博士課程2年)
金子 洋之(慶應大学・教授、ヒトデ・ウニの生物学)
河合 成道(慶應大学・助教、ヒトデ・ウニの生物学)
濱中 玄 (お茶の水女子大学・特任講師、発生生物学)
古川 亮平(岩手医科大学・助教、発生生物学)

無脊椎動物の温度受容体をターゲットとして温度感受システムの起源と進化に迫る

 ヒトの祖先は赤道付近のアフリカの高温地域から派生し、氷河期などの過酷な環境変化の中を生き抜いてきました。現在、私達ヒトは、北極圏を初めとする-40度を超える寒冷地や、日中の温度が50度近くなる赤道直下の高温地域に暮らしています。一つの生物種でここまで多様な環境に適応している種は多くないでしょう。一体、ヒトはどのように多様な温度環境に適応しているのでしょうか。

 この疑問解決の第一歩として、颯田先生は、温度受容体であるTransient Receptor Potential(TRP)に着目しました。そして、「温度感受システムの進化生理学 -無脊椎動物をターゲットとして-」と題した研究テーマが、2013年度に学融合推進センターが支援する「戦略的共同研究」に採択されました。脊椎動物の遥か以前に誕生した無脊椎動物のTRPをターゲットにすることで、TRPがどのように進化し、どのようにゲノムに維持されてきたかを紐解くことで、「温度感受システム」の起源と進化を探っていきます。

急激に変わる地球の環境変化にヒトの身体が適応できていない!?

 例えば寒い地域に住んでいる人と、暑い地域に住んでいる人とでは、同じ気温でも温度の感じ方が違うと思いませんか?もちろん、文化や生活圏での「慣れ」というものがあると思いますが、私たち人間は同一種であるにもかかわらず、なぜこうした「温度の適応能力」に違いがあるのでしょうか?  生物は、地球の環境変化に合わせて進化し、適応してきました。しかし産業革命以降、私たち人間の作り出した文明の発展と共に、地球の環境は大きく変化を遂げています。

その環境変化に、私たち人間は追いついていないのではないでしょうか?例えば、塩分が貴重だったはるか昔、「貴重な塩分」をより多く体内に蓄えられるよう、ヒトの身体は適応していました。しかし現代になり、塩分は簡単に摂取出来るようになり、そうした適応が「高血圧症」など様々な弊害を生んでいます。
 私たち人間は万能ではありません。急激に変わる環境に適応していく為にも、まず私たち自身が、ヒトの身体のことを知る必要があるのではないでしょうか?颯田先生は、「温度」という視点で、環境に適応できる許容範囲を知ることに挑戦しています。

死の温度帯へと向かうヒトデの幼生の不思議と「2度のギャップ」

 1mm程のヒトデの幼生をチャンバー(小さな箱のような実験機器)に入れ、その中に20度から25度などの様々な温度勾配を作り、ヒトデの幼生がどのような反応を示すか、実験しました。その結果、ヒトデはより高い温度を好んで移動することが分かりました。ヒトデは33度以上の温度になると、耐えられずに死んでしまうのですが、驚くべきことに、30度から35度の温度勾配の実験でも、死んでしまう温度帯である35度の方向へ移動します。

 また、ヒトデの幼生の温度受容体が機能しなくなる阻害剤を用いた実験の結果より、TRPが無脊椎動物にもあることが分かりました。
 さらに、ヒトデの幼生における「TRPA1」が35度の温度を感受していることも明らかとなりました。ヒトデが死んでしまう33度と遺伝子のレベルで感じることができる35度との「2度のギャップ」、こうして生まれた新たな不思議に颯田先生は挑まれています。

「学融合研究のしやすい環境」で得た財産

 颯田先生は、普段はコンピューターを使ったゲノム解析を中心に研究されていますが、今回の共同研究を行うに当たって、他の研究者が行う異なる研究手法に触れることができました。それにより、視野が大きく広がったそうで、それこそが財産だといいます。この財産を得たのも、総研大の強みである、「学融合研究のしやすい環境」にいたからだそうです。

 また、本来の颯田先生のテーマはヒトです。今回の実験で得られた知見を基に、「ヒト」への研究にテーマを広げていきたいと考えています。今後の研究では、「ヒト」の感覚を専門とされる生理学民族学などの研究者と共に研究の裾野を広げていきたいと語ってくださいました。